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生きた 書いた 恋した

 フランスの作家、スタンダールは自らの墓石にそう刻んでくれと願ったそうだ。情熱の国、フランス人ならではの墓碑銘と言えるが、ほとんどの日本人にはこのような神経の持ち主はいない。例えば、この墓石一つ取ってみてもだ。

 今日、自分はある事情で墓地に来ていた。今は遠いところにいる、懐かしい友人に逢うためだ。隣には好評分譲中ののぼりが立っている。人影はない。実に静かなものだ。風の音だけが聞こえていた。

 変人呼ばわりされるから人に話したことはないが、この世で一番落ち着ける場所は墓地だと思っている。だが夜中に来て肝試しをやりたいわけではないし、そのような趣味はない。

 行くのは午後の昼下がりだ。喧噪から離れたくなったとき、私は墓地の東屋へと出向く。そこで静かに本を読む。なんて静かなんだろう。森の中や公園とは違い、何かが静止した静けさを感じるのは、あれは、死者たちの安らぎだからだろうか。